山田風太郎 妖異金瓶梅 ISBN:4331605213

精力絶倫の快楽主義者・西大人は、八人の夫人と二人の美童を侍らせて、毎夜、酒池肉林ともいうべき法悦の宴をひらいていた。この屋敷で、第七婦人・宋恵蓮が両足を切断された無残な屍体で発見される。はたして誰が? 何のために――? 
中国四大奇書金瓶梅を、山田風太郎が連作短編ミステリに仕立てあげた名作。

以下、物語の根幹となる部分のネタバレではありませんが、第一話(赤い靴)以降の犯人をネタバレしているので、未読の人は読まない方が良いかもしれません。しかし、この小説について言えば、あまり重要ではない気もするのですが、一応、気をつけてください。

            *以下、犯人をネタバレしています。




西大人の第五婦人、潘金蓮は、西大人を慕うがあまりに、西大人が気に入った女性を次々と殺害してしまいます。探偵役の応伯爵は、西大人の友人であり、同じく精力絶倫の遊び人でありますが、金蓮が仕掛けたトリックや事件の真相といった物を鋭い洞察力で見抜いてしまいます。

応伯爵は、息がきれてきた。潘金蓮はだまって、深い冬の蒼穹を仰いでいる。ほとんど神聖美の極致ともいいたい横顔であった。われしらず、伯爵の口からは、うわごとのような言葉がころがり出した。
「しかし、あなたの美しさは、そういうことをなさる値うちがある」
潘金蓮は、応伯爵にまなざしをもどした。深淵のような黒いひとみの底に、妖しい微笑の炎がちろちろとゆらめきだした。(赤い靴)

しかし、応伯爵は毎回、事件の真相を見抜きながらも、潘金蓮の妖しい魅力に惹かれるがために見逃してしまうのです。
本書は毎回、探偵役と犯人役が同じという、この時代ならではと思わせる設定の連作短編形式ではありますが、物語が後半へ差し掛かると、ミステリの範疇を飛び越えた怒涛の展開が待ち受けており、読み終えた時、その圧倒的な一途な愛の物語に打ちのめされるのは必死だと思います。しかしながら、短編ひとつひとつを見てみると、本格ミステリとして実に様々なアイデアのトリックが仕掛けられており、この壮大な愛の物語とミステリを融合させている点で奇跡的といえるのではないでしょうか。自分ごときが今更言うのも何ですが、傑作です!
「こんな女に愛されてぇなぁ! ・・・恐いけど」