今日の会話

「先輩、俺、こないだ事故の瞬間見ちゃったんですよ」
「へぇ、俺は事故の瞬間って見たことないけど。それでどんな感じ?」
「俺は助手席に座っていて、当たった瞬間は見てはいないんですが、どうやらトラックと原付がぶつかったようなんです。
「先日、ドライブの帰りにある国道を通っていたんですが、ちょうど○〇のあたりに差し掛かったへんですかね、まっすぐな道でボーっとしてて視線をやや左方に向いていたら、突然、視界の右側にパッと何かが弾けたような感じがしたんですよ。雪? それにしちゃあ、どうも違うな、と。すると今度は何でしょうね、肌色の大根みたいなものがフッと宙を舞っているんですよね。そして、よく見ると、その大根みたいなものにスカートがくっついてるんです。
「その瞬間、『あっ! 人だ』って気が付いたんですが、最初の雪みたいなのはどうやら原付のミラーだったっぽいんですよね。ミラーが割れて、パッと弾けた瞬間を見て、直後に人が飛んできたんですよ。
「それで運転していた友人は跳ねられた瞬間から見ていたらしく、原付が吹っ飛んで、ミラーが散乱して、人が宙に放り出される場面まで見てしまって、その人が自分の運転している車の方に飛んできて、思わず『あ、轢いた』って呟いたんです。
「でも、『あ、轢いた』って言いながらも、ハンドルを回したんですかね。僅かな差だったと思うんですけど、車に向かってくる人をキュッキュッ!って、かわしたんですよ。だけど、そのまま止まるのも危ないんで、真っ直ぐに家路につきました。
「多分ですけど、その間の出来事はほんとに1秒あるかないか位ですかね。パッと弾けたミラーが視界に入ったのがコンマ何秒。大根みたいなものがあるぞ? って気がついたのがコンマ何秒。スカートを穿いているから人だ、しかも女の人だ、って気がついたのがコンマ何秒。全部で1秒かかってないでしょうね。
「変な話ですけど、少しF1レーサーの気分を味わいましたよ。だけど、あの場面は一生、記憶に焼きついてるでしょうね。先輩も原付、気をつけて下さいね。――マジで吹っ飛ぶから」