怪奇探偵小説傑作選〈3〉久生十蘭集―ハムレットISBN:4480036431

 何だか感想を書くのが難しいです。普通、作家の選集というのを読むとある程度は傾向と言いますか、レッテルではないのですが、こういう作風なんだな、というのがわかる気がするのですが、この作家は作風が非常に幅広いのだな、という印象を受けました。
 「墓地展望亭」と「地底獣国」は良質な映画を見ているような感じを受けましたし、「母子像」、「虹の橋」など残酷で救い様の無い話でありながら、作品全体から漂う透明感というもの感じました。あえて、共通点のようなものを挙げるとしたら、解釈が間違っているかも知れませんが、どの作品も上品な印象を受けることと、登場人物に偏屈な人間が多いという点が挙げられるでしょうか。ともかく、「物語」というものを書くのが非常に上手い作家であると思います。
ただ、本書を読んでいて感じたのですが、どうも作者は大分へそ曲がりと言いますか、一筋縄では行かない人のように見受けられます。名前にしましても僕はずっと「ひさおじゅうらん」だと思っていたのですが、都筑道夫の解説によると「くうとらん」だったり「久しく生きとらん」だったり「くぶじゅらん」だったりと、どれが本当の呼び方だったのかいろいろと諸説があるそうです。本書の「月光と硫酸」という作品に「十蘭」という人物が出て来るのですが、何となく本人もこういう方だったのかな、と思ってしまいました。
何か毎回「あれもこれも読んでみたい」と言っているような気もしますが、とりあえず「墓地展望亭」と「地底獣国」を読んだ時の感動をもう一度味わいたいもので、波乱万丈の大長編であるという「魔都」(ISBN:4022640634)も読んでみたいものです。