牧逸馬「浴槽の花嫁 世界怪奇実話-Ⅰ」社会思想社 教養文庫

 切り裂きジャックに始まり、嘘一つで巨万の富を得る女詐欺師、浴槽で毎回違う花嫁を殺し、保険金を騙し取る男、変態異常性欲者。怪人、奇人、変態のオンパレードです。全ての話が第一次世界大戦の頃の話なのですが、主に話の焦点は「一体、何故このような犯罪が成し遂げられたのか? または何故犯人を捕まえることができなかった、or できたのか?」ということであり、それらを社会的背景、犯人の心理などから綴っています。
 松本清張の解説にもありましたが、牧逸馬という人はイギリスへ渡り、古書店にて犯罪記録書というのものを買い漁り、お金が無くなると中央公論社の社長に電報一本でお金を寄越してもらっていたそうです(うらやましい・・・)。また、「牧逸馬」の他に「林不忘」、「谷譲次」と三つの筆名を用いており、牧逸馬名義では、主に怪奇実話や探偵小説を手掛けていたそうです。
 とにかく、実際の事件を要約した形の小説なのですが、事件の特異性、犯人の異常さ、といった題材に興味を引かれますし、膨大な資料の中*1から30ページほどの短編に仕立て上げるのが上手で、最後の締めくくり方が実に面白いと思います。
 正しく「事実は小説よりも奇なり」という言葉が当てはまる一冊でした。

*1:お金が無くなるたびに社長のところにお伺いの電報を送ると社長から「全部買っておけ」と言われ、物凄い量の犯罪記録書を買い漁っていたらしいです。