城昌幸「双色渦巻 若さま侍捕物手帖」春陽文庫

年のころは三十と四五、美男というほどではないが、凛とした風貌で、一見したところは浪人者なのだがなぜか"若さま"と呼ばれる!?と呼ばれているわりには行儀が悪く、居候を決め込んだ大川端の船宿『喜仙』の二階座敷の床柱を背に右立膝の左懐手、天下泰平といった顔つきで酒仙よろしく剣菱を楽しんでいる!その大様なところは百万石の大大名とも見うけられるのだが、この若さまには不思議な才能があって、これがまた天才的!

 というその不思議な才能とは不可解な事件を解決する直観力、推理力といったものです。
 捕り物帖というジャンルはこれまで読んだことが無かったのですが、こちらに登場する若さまは、酒を飲んでばかりのくせに鋭い直観力から名推理を披露し、あげくには犯人とのチャンバラで相手を圧倒するほどの腕前でもあります。また大悪党を前に大見得切られてすごまれても「ハッハッハ!」と高笑いひとつ、飄々とした風情でいなしてしまいます。
 本書は短編集ですが、密室ものやアリバイものなどバラエティーに富んでおり、中篇の「双色渦巻」などは2重3重に人々の思惑が絡まり、そこへ謎の人物まで現われ、複雑な様相を呈し、事態は二転三転また逆転、と最後までスリリングな展開で面白いです。また、最後に明かされるある真相については完全に騙されました。
 本格好きな方にもお奨めできる一冊ではないかと思います。