西村寿行「滅びの笛」角川文庫

 環境庁の職員、沖田克義は、異常な行動を取る鳥獣類、120年に一度の周期で大量の実を付けるといわれる笹などから、その笹が群生する中部地方でネズミが大発生することを予測する。ネズミ学の権威右川教授とともに調査するため現地へ赴くと、数万の群れをなしたネズミに襲われ予測が確信と変わり、環境庁長官に至急対策を求めるよう直訴する。しかし、銃器業界からの圧力や犬猿の仲である林野庁とのあつれきなどを考えた長官はその訴えを棄却してしまう。
 やがて月日がたち、ネズミのことも忘れられかけていたある日、山間のある村落がネズミの群れによって全滅するという事件が起こってしまう。日増しに拡大する被害からついに恐れていたことが現実となったとき、もう全てが手遅れになっていた……。

 面白い! 地元が舞台だからというのもあるのですが、これは読み始めたら止まらない面白さです。どうすれば、ひとつの県が機能を失い、崩壊するかというのが段階的に示されていて、四方を山に囲まれ、他県への出口が少ないという条件があったにしろ、次から次へと問題が起こり、事態は悪化する一方で、まあとにかく山梨県は壊滅的な被害を受けてしまいます。食物を求める20億ものネズミ群、四方を封鎖され陸の孤島と化した場所に取り残された人間、とどちらも追い詰められ集団になると個が埋没してしまい、狂気に突き動かされてしまうというのが良く表現されています。また事態が深刻になるに従って、ネズミとの対決からパニックに陥った人間同士での殺戮、県を見捨てた国家との対決へと構図が変わってゆくのも興味深いです。
 「こんな話をどうやって終わらせるんだ!」とドキドキしていたら、最後は少しあっけなくて拍子抜けしたのですけど、文句なしにオススメな一冊です。ただし18禁。
 ローカルな地名が出てくるたびに、何ともいえない気持ちになりましたが、久しぶりにワクワクしながら物語に引き込まれてしまいました。しかし、この本のせいでネズミ恐怖症になってしまうかも。