MYSCONへ来ると桶屋が儲かる(安)

 「MYSCON、と言われましてまず頭に浮かぶのは、ミステリを趣味に嗜む紳士淑女の社交場というよりも、正直なところを申し上げますと「少し濃い方達」の集まりというイメージがどうしても先行してしまいます。私のように海外古典を全く読んでいない、また国内作家に関しても、それほど精通していない半端なミステリ好きが参加しても果たして受け入れてくれるのだろうか? と、そんな不安な気持ちばかりが増長してしまうのです。
 さて、そんな不安をよそに、いざ当日になってみますと、うじうじ悩んでいても仕方がありませんし、「なるようになってしまえ」と少しやけ気味に腹を決め、ふがふがと鼻息を荒くして会場へと乗り込んでみたのです。――そのときはまだ、あのようなことが起こるとは夢にも思っておりませんでした……。
(中略)
 ――そうなのです。これでようやくあなたも信じてくれたでしょう。まさかMYSCONへ参加したために桶屋が儲かる、という異常な事態が起こるなどとは、こうやって語ってみた今も事実だとは到底思えないのです。
 気軽な気持ちで参加した私は、あのような恐るべき体験をしてしまい、思いだすだけで今も鼓動が速まります。あれから随分経った今だからこそ、落ち着いてあなたにお話することができますが、今でもときどき夢に出てくるのです。毎回、うなされながら目がさめて、そのたびにアレが事実であったか自信が持てなくなるのですが、桶屋の前を通るたびに夢ではなかったことをまざまざと思い知らされるのです。
 あなたも気を付けて下さい。MYSCONには何やら、名状しがたいものを呼び寄せる磁場のようなものが存在するようです。くれぐれも私のように気軽な気持ちで参加してはなりませんよ……。――おや? この話は4回目ですって? そんなはずはありませんよ。今までずっと胸のうちに秘めていた話なのですから。――ああ、もう面会時間は終わりですか。今日は遠くからわざわざありがとうございました。次はいつ来て下さいますか? ここのご飯はあまり口に合わないので早く出てゆきたいのですがね。――先生が駄目だとおっしゃっている? ああそうですか。ではまた近いうちにお会いしましょう。さようなら」