妻との連絡が途絶えて1ヶ月が経過した。
 妻が実家へ帰った当初、私は久しぶりに癇癪持ちの妻から逃れられた開放感から独身貴族を気取り、悠々自適の生活を送っていた。部下にその事を尋ねられると、
「どうせすぐにごめんなさいと謝ってくるさ。一人暮らしは学生時代以来だけど、こんな生活も悪くないね」
と上司として、また男として余裕のある答えをしていた。
 しかし1週間も過ぎると、家事が全く出来ない私のせいで家の中は雑然としだし、部下も近所の人も決して声には出さないが、妻に逃げられた男と私に哀れむような目を向けるようになってきた。私はやりきれない気持ちになり、鬱々とした感情が膨れ上がるようになり、妻に逃げられたことを負い目に感じるようになってきた。母も私のことを心配してか、電話越しに
「どうせろくでもないケンカなんでしょ。早くあの子に謝りに行きなさいよ」
と言い出す始末である。
「うるせえバカ!」
と私は声を大にして言いたい。
 あの女の癇癪がどれだけ凄いのか知らないからそんなことをいえるのだ。こちらがひとこと言えば十倍になって帰ってくる罵詈雑言の嵐にはもううんざりなのだ。それに、妻に去られた夫が社会でどのような目で見られるのか、少し考えてみればすぐにわかるものだろうが、いや、あの女は解っていてやっているのだろう。
 ああ神よ。真面目でハンサムな私が何故このような仕打ちを受けるのですか。
 おい、妻よ。明日こそお前の実家へ行くぞ。だから、ダイヤの指輪で勘弁して