モーリス・ルヴェル 夜鳥 ISBN:4488251021

 フランスのポオと呼ばれた短編の名手で恐怖と残酷、謎や意外性に満ち、ペーソスと人情味を湛える作品集。
 ・・・とにかく素晴らしいです。後頭部が痺れるような、体がカーッと熱くなるような、上手く自分の言葉で表すことができないのですが、この作品集に寄せられた夢野久作の文章の一節に感銘を受けたので、それを引用することにします。

本格ものは読んでいると音楽趣味を理解する為にピアノの組み立て方とその学理を説明されてるような気がする。又本格ものを書いていると、やはりピアノの組立方を研究しているような気もちになって味気なくてしようが無い。その組み立てるのが面白いのだと云う人があればソレ迄だが、私は元来ピアノそのものには面白味も感じない性分である。多少音階が違っていても、音が悪くても構わない。それを弾じている人の腕前と、その腕から出て来る音律に興味を持つようである。(夢野久作

 自分は、本格ものは本格もので好きなのですが、本書を読んだ直後にこの一節を読むと「なるほど」と思わずにはいられなくなります。残酷で救い様のない話が多いのですが、読後に心を鷲掴みにされてしまうほど強烈な余韻を残します。全ての話が、わずか10ページほどの短編ばかりなのですが、「幻想」や「孤独」、「碧眼」などは1作読むごとに休憩を入れなければ次の話を読み始めることが出来ないほどに胸の中をかき乱されます。最後の一行が切れ味鋭く、素晴らしい話が多いですし、人間の揺れ動く心が引き起こす悲劇や喜劇など、本格もののように謎を論理的の解く話はあまり無いのですが、「自分が本を読むときに求めていたものというのはこういう話だ!」という作品ばかりです。
 「短編ばかりだから、ちょっと読んでみようかな」と軽い気持ちで手にとった一冊ですが、僕の中では文句なしに今年NO.1の作品集でした。