通学のため、いつものように駅へ行くと、ホームに人の姿が見当たりません。発車時刻になっても電車がやってくる気配が見えないので、駅員に今日はどうしてしまったのかを訪ねてみることにしました。
――電車が来ないのですが、今日は何か事故でもありましたか?
――ああ、途中の駅で人身事故が・・・・・・いや、ごらんの通り天気が悪いでしょう・・・? どうやら大雨のためにある区間で不通になっているようですが・・・しかし、いずれ電車はやってくるでしょう。
――雨は降っていないようですが・・・? 今日はなぜ人がいないのでしょうか・・・ 今は通勤ラッシュの時間帯だと思うのですが・・・
 すると、駅員はどこか遠くのほうを見つめながら呟きました。
――さあ? こういう日もたまにはあるのではありませんか? ・・・・・・私もそろそろあなたにつき合うのが億劫になってきたので、帰らせて頂きますが・・・
――待って下さい。本当に電車はやってくるのですか? 私はこれからどうすれば良いのですか? 今日は学校の大事な要件があるので、是が非でも電車に乗らなければなりません。電車が来ないのなら、どうやって○◇まで行けば良いのですか?
 私の言葉を無視してその駅員は駅員室へと帰ってしまいました。途方にくれながらも次にやってくる筈の電車の時刻まで、その次にやってくる筈の電車の時刻まで・・・と30分は待ったでしょうか。電車はおろか、人っ子一人現われる気配がありません。
 ・・・・・・大事な用件を約束した時刻まで、あと1時間というところで私は電車を諦め、タクシー乗り場へと向かいましたが、今日に限って一台も見当たらないのはどうしたことでしょう。
 ・・・・・・何もかもが上手く行かない日もあるのだろうか、要件に関しては電話で謝ることにして、もう家に帰ろう・・・と諦めかけて帰路につこうとすると、ゴトンゴトン、とホームに滑り込むようにして電車がやって参りました。私は一目散に駆け出し、駅構内を走り抜け、今まさに閉じようとしているドアに体当たりし、体を半分ねじ込むようにして電車に乗り込みました。
――駆け込み乗車は、危ないのでお止め下さい。
 肩で息をしながらホームを見ると、先ほどの駅員が薄ら笑いを浮かべながら私の方を見つめています。私はその視線に耐えられなくなって他の車両へと移動しました。
 結局、要件に関しては30分の遅刻をしてしまいました。